いくつだと思う?
当てたらタコをひとつあげるよ
そう言って楽しそうに笑う男性は
小柄で細身の漁師さん
同行した写真仲間に年を尋ねられ
ピタリと当てたら 今獲ってきたばかりのタコをくれると言う
深く刻み込まれた顔のシワから
そこそこのお年かとも思えたけれど
そのきびきびとした動きを見ると 案外お若いのかもしれない
いくつだろう‥
あれこれ思案していたら
隣にいた写真仲間が 大きな声で「77歳 」と答えた
「 93! 93だ 」
漁師さんは愉快でたまらないといったふうに
笑っている
それにしても93 とは
すごすぎる‥
船の中の巨大なタコが ゆっくりと動く
いったいどれくらいの重さがあるだろう
感心してタコを眺めていると
生きてるから 触ってみろと言う
ぬるぬる ぬめぬめ
無理です‥
予め用意してあったシートを船の上に被せ
漁師さんが 昔話に花を咲かる
浜言葉はとても難しくて 話してくれることの7割が分からない
足りない部分は想像力で補いながら相槌を打ったのだが
カンの鈍い私にも
彼が勇敢で 聡明で やさしい人であることだけはよく分かった
「それじゃあ 先がありますからこの辺で
いろいろとありがとうございました」
挨拶をすませ
互いに船から離れた途端
シートをかけただけの船に カラスがやって来るのが見えた
そうか あれはカラス避けのためのシートだったのか
カラスは青いシートの周りをピョンピョン移動しながら 隅をつつき始める
知らせなきゃ と思った瞬間
写真仲間の声がした
「 カラスが来てるよ 」
「 タコを狙ってるよ 」
「 あぁ いいんだ 」 と片手を上げる漁師さん
なんだか めちゃくちゃ かっこいい
ゆっくりと時間が流れる初夏の一コマ
もうこの漁師さんにお会いすることはないかもしれないけれど
きっと私 この日のことを忘れない
おまけ
で タコってなに?