初めて長都沼に行ったのは、夫が亡くなる数年前でした。
いい所らしいよ。
夫があまり嬉しそうなを顔をしてそう言うので、しぶしぶついて行くことになりました。
その日は風の強い寒い日で、沼に着いてすぐに手の先が冷たくなりました。
生きものの姿は何処にもなく、
静まり返った沼で 葦原が音をたて なびいていたのを覚えています。
数日前、知り合いを長都沼に案内しました。
空は、雁と白鳥でいっぱいでした。
陽の光に透けて見える白鳥の美しいこと。
あれはマガン。
あっちはヒシクイかな。
水を蹴って走り、飛び立って行くものもあります。
穏やかな水面には、肩を並べて飛んでいく白鳥の姿が映り込んでいました。
何もいない沼の縁で、夫は一緒に写真を撮ろうと言いました。
そんなことを言われたのは初めてだったので 私は大いに驚きました。
夫がコンパクトデジカメをセットして、2枚ほど写真を撮りました。
写真の中には私の肩に手を回し、口を真一文字に結んだ夫が写っていました。
知人と並んで立って、次々と舞い降りる白鳥を眺めました。
夫にも、これを見せてあげたかった‥。