花咲かおまさ

北海道のガーデニングブログです。雪国でイングリッシュガーデンを楽しんでいます。

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忘れてしまうけれど 後編

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老婦の歩みは止まらない
その華奢な身体のどこにそんなエネルギーがあるのか
ずんずん歩いてゆく
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「膝が少し悪いんです」
背広の青年はそう言っていたが そんな気配はみじんもなかった
私も急ぎ足で歩きながら老婦に尋ねる
「 どこに行かれるんですか?
娘さんの住まい お分かりになるんですか?」
「分ります 大丈夫です
もう1人で行かれますから」
「でも私 やっぱりマンションまでご一緒します」
婦人はちらりと私を見て 戸惑ったような顔を見せたが
歩調を緩めることなく歩き続けた
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彼女の歩みが止まったのは 駅ビルのショッピングモールを抜けた所だった
「どうされました?
道 わかりますか?」
老婦は力なく 「わからない」 と答え
私は少なからずうろたえたが
彼女はすぐに思い直したように
「でも大丈夫です」 と言うと また猛烈な速さで歩き始めた
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「とにかく ちょっと ここで休みましょう」
やっとのことで婦人をとめ
娘さんのマンションの名がわかるかと尋ねてみた
老婦は 少し考えたあと マンションの名前を口にしたが
元々土地勘のない私に場所がわかるはずもない
さてどうしたものかと思案していたら
60代後半くらいだろうか
ふっくらとした人の良さそうな女性が 声をかけてくれた
どうしたんですか? 道に迷ったんですか?
あぁ 助かった
事情を説明し
老婦の教えてくれたマンションンを知っているかと尋ねてみた
聞いたことがないと女性は答え
近くに交番があるから行ってみてはどうかと勧められた
それはいい
よかった これで問題は解決だ
ところが老婦は 交番には絶対に行かないと言う
1人で行かれるから大丈夫 の一点張りなのだ
ふっくらとした女性は 私を見てゆっくりと首を横に振り
「私が交番に行って事情を説明して来ます」と言ってくれた
ありがたい
「じゃあ それまで私がここに引き留めておきますから」
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女性はなかなか戻って来なかった
苛立ちを抑えきれない様子の老婦を その場に引き留めるのは
予想以上に骨の折れることだった
寒いと言う老婦
着ていたダウンジャケットを脱ごうとすると
「そんなことはしないでください」 と強く断られた
他人に迷惑をかけてはいけないと 育てられてきた世代なのだろう
ピンと伸びた背筋や 上品な物腰 自立した態度は
彼女がしっかりと人生を歩んできたことを証明しているように思えた
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突然老婦が なにかに気づいたようだ
「あれです!」
彼女の視線の先には 高層ビルが2つ並んでいる
「娘が待っているから 行きます」
もしかしたら思い出したのかもしれない
でも間違いでないという確証はないし 先ほどの女性のこともある
なんとか女性が戻って来るまでは待って欲しいとなだめ
老婦を引きとめた
「どうして そんなにしてくれるんですか?」
探るような目を見つめ返しならが 私は答えた
「私ね リムジンバスを待っているときに 隣に居た男性に
バス停で娘さんが待っていると聞いているんですよ
でも 娘さんはいらっしゃらなかった
だから そのまま別れるなんて 私にはできないんです」
老婦はキョトンとして私を見つめた
彼女は男性のことを もうすっかり忘れていた
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交番に向かった女性と別れてから
15分くらいは経っていただろうか
今度は初老の男性に声をかけられた
「どうしたの? 道に迷った?」
再び事情を説明して こういうマンションを知らないかと尋ねたが
やはりその男性にも心当たりはなかった
老婦は指を指す
「あの建物なんです」
「あれなら僕の住んでるマンションだ
〇〇〇〇〇っていうんだよ 名前が違うなぁ」
老婦はそれを聞いてバッグから宅配の送り状を取り出した
男性は驚いたように
「〇〇〇〇って書いてあるじゃない
同じマンションだ
しかもこれ 僕のひとつ上の階だよ」
なんという偶然 こんなこともあるんだ
老婦は名前こそ間違ってはいたが
娘さんの暮らすマンションを ちゃんと見つけていたのだ
そこにちょうど 先ほどの女性が戻って来て
交番は1人勤務だから その場を離れることはできないと言われたと話してくれた
老婦は皆に礼を言い もう1人で大丈夫だと言ったが
マンションに入るのも 簡単じゃないからと
男性が付き添ってくれることになった
よかった
この人になら任せられる
「 じゃあ すみませんが あとのこと よろしくお願いします」
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老婦は私に向かって深々と礼をし
「ありがとうございました」と何度も繰り返した
とにかく よかった
もしかしたら 娘さんと会う頃には
私のこともすっかり忘れているかもしれないけれど
そんなことは大したことじゃない
さあ 私も早く娘の所に行かなきゃ
これで老婦と私とのお話はおしまいです
先後までお付き合いくださって ほんとうに ありがとうございました
今日が皆様にとって すてきな1日でありますように

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